2011年の東日本大震災以降、人々の防災意識は高まっています。特に住宅においては、住まいの安全性を高める「耐震補強(耐震リフォーム)」が注目されています。
そこでこの記事では、耐震補強について詳しく解説します。耐震補強をはじめとする地震対策工事の種類や耐震補強の費用相場、耐震補強で利用できる補助金制度について紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
耐震補強(耐震リフォーム)とは?
耐震補強とは、既存の建物の耐震性を高める工事のことで、耐震リフォームとも呼ばれます。耐震補強は「基礎、土台、柱、梁、床、壁・天井」といった建物の構造部分に対して行われます。
耐震補強は、建物に対して行う工事であるため、地盤改良工事は耐震補強には含まれません。
地震対策工事の種類
地震対策工事というと、耐震補強という言葉が有名ですが、実は地震対策の仕組みと工事の内容によって、以下の3つにわかれます。
- 耐震 (地震の揺れに耐える)
- 制震 (地震の揺れを吸収する)
- 免震 (地震の揺れを伝えにくくする)
それぞれの違いについて見ていきましょう。
耐震 (地震の揺れに耐える)
「耐震」とは、建物の強度を高めることで、地震の揺れに耐えられる強い構造をつくることを指します。耐震補強では、以下のような工事を行い建物の損壊や倒壊を防ぎます。
- 基礎の補強工事 (鉄筋入り基礎コンクリートの増設)
- 壁の補強工事 (耐震性の高い壁材への変更、耐震性のある部材の追加)
- 柱や梁、土台の補強 (金具で連結)
- 屋根の軽量化 (軽い屋根材への葺き替え) など
耐震補強は、制震補強や免震補強に比べると費用が安く、一般的な住宅の地震対策工事として採用されています。
制震 (地震の揺れを吸収する)
「制震」は、地震のエネルギーを吸収することで、地震の揺れを軽減して建物の損壊を抑えます。制震補強では、制震装置の設置 (ダンパーなどの設置)を行います。
制振装置には、壁や柱の接合部に取り付けることで地震の揺れを吸収し、ダメージを構造躯体に伝えにくくするという役割があります。一般的な住宅に使用される制振装置は「ゴムダンパー」「鋼材ダンパー」「オイルダンパー」の3種類です。
制震補強は、地震の揺れを軽減できるため、住宅だけではなく揺れやすい高い建物 (ビルやマンションなど)でも採用されています。制震補強は、耐震補強に比べると工事個所は少なく済みますが、耐震補強よりも費用が高くなるのが一般的です。
免震 (地震の揺れを伝えにくくする)
「免震」とは、建物と地盤を切り離すことで、地震の揺れを建物に伝えにくくする地震対策です。建物と地盤を切り離すといっても、建物を浮かせるわけではなく、建物と地盤の間に免震装置を設置して建物を地盤から絶縁します。
免震装置とは、地震の揺れが発生すると建物を支えながら水平方向に変形する「アイソレーター (積層ゴム支承やすべり支承など)」と地震の揺れを吸収する「ダンパー」を組み合わせたものです。
免震は、耐震や制震に比べて建物が揺れにくいことが特徴です。そのため、家具の転倒や落下なども少なく、内装への被害を抑えられることもメリットといえます。ただし、免震装置は建物と基礎の間に設置するため、基本的にはすでに建っている建物に後付けするのは難しいのが一般的です。
また免震は地震対策としては非常に有効ですが、コストが高いため、住宅よりも超高層ビルやタワーマンションなどで採用されています。
耐震補強の費用相場
ここからは、多くの住宅で採用されている「耐震補強」の費用相場について紹介します。
日本木造住宅耐震補強事業者協同組合による「木耐協調査データ 令和元年10月発表」によると、戸建て住宅全体の耐震補強の費用相場は、100万円~200万円前後※が一般的と考えられます。ただし住宅の耐震補強を行う場合、費用相場は築年数によっても異なります。
※補強工事実施者から得られた工事実施金額の約4割が100~200万円未満と回答。
【築年数別】耐震補強の費用相場
建築年代 | 築年数※ | 平均補強工事費 |
---|---|---|
昭和36年~昭和40年 | 築57年~61年 | 234.23万円 |
昭和41年~昭和45年 | 築52年~56年 | 185.11万円 |
昭和46年~昭和50年 | 築47年~51年 | 190.62万円 |
昭和51年~昭和55年 | 築42年~46年 | 171.63万円 |
昭和56年~昭和60年 | 築37年~41年 | 162.98万円 |
昭和61年~平成2年 | 築32年~36年 | 155.08万円 |
平成3年~平成7年 | 築27年~31年 | 144.03万円 |
平成8年~平成12年 | 築22年~26年 | 113.55万円 |
参考:木耐協 耐震診断結果 調査データ 平成30年
※令和4年 (2022年)現在
住宅は、築年数を重ねるごとに劣化していきます。そのため、築古物件ほど耐震補強の費用は高くなります。
特に昭和56年 (1981年)より前に建てられた住宅は、現在の耐震基準ではなく旧耐震基準によって建てられているケースが多くあります。旧耐震基準の建物を、現在の耐震基準に合わせるためには、補強箇所も使用する部材も多くなるためコストが高くなるのです。
【場所別】耐震補強の費用相場
家全体の耐震補強工事ではなく、部分的な耐震補強を行うケースもあります。各場所の耐震補強の費用目安は、以下のとおりとなります。
工事個所 | 費用相場 |
---|---|
基礎の補強工事 | 4万円~5.5万円/m |
外壁の補強工事 | 13万円~15万円/幅910mm |
内壁の補強工事 | 9万円~12万円/幅910mm |
屋根の補強工事 | 1.5万円~2万円/㎡ |
部分的な耐震補強を行う場合は、建物全体の耐震性のバランスが崩れないように注意が必要です。一般的に1つの建物の中で場所によって耐震性に大きな差があると、その境界部分が損壊しやすくなります。
耐震補強が必要になる建物
近年、新しく建てられた建物や住宅は、高い耐震性を実現するものが多くあります。しかし、長年住んでいるマイホームや購入した中古住宅などでは「耐震補強が必要なのでは?」と悩むこともあるでしょう。
そこでここからは、耐震補強が必要となる建物の特徴について紹介します。
旧耐震基準で建てられた建物
現在、新たに建てられる建物は、1981年 (昭和56年)に施行された建築基準法の耐震基準 (新耐震基準)に基づいて建てられています。しかし新耐震基準が施行される以前は、旧耐震基準と呼ばれる別の基準がありました。
新耐震基準と旧耐震基準の違いは、以下のとおりです。
震度5程度の地震に対する耐震性 | 震度6~7程度の地震に対する耐震性 | |
---|---|---|
新耐震基準 | 建物の部材の各部が損傷を受けない | 倒壊または崩壊がない |
旧耐震基準 | 倒壊または崩壊がない ※損傷を受ける可能性はある | 規定なし |
つまり1981年 (昭和56年)より以前に建てられた建物は、旧耐震基準が用いられており耐震性が低い可能性がありますが、建て替えや耐震補強は義務付けられていません。
そのため、築40年を超えるマイホームや中古住宅の場合、地震に対する安全性を高めるために耐震補強が必要になるケースが多いでしょう。
地震の被害を受けたことがある建物
日本で起こった近年の地震災害を見てみると、本震だけではなく大きな揺れを感じる余震を繰り返し起こしていることがわかります。
過去に大きな地震による被害を受けた建物の場合、見た目に損傷がなくとも、度重なる地震の揺れにより、構造部分に損傷を受けている可能性もあります。その場合、次に地震の被害に遭った際には、建物が損壊・倒壊してしまう恐れもあるでしょう。
過去に地震の被害を受けたことのある建物は、なるべく早く耐震補強について検討するのがおすすめです。
1階の壁面積が少ない建物
1階の壁は建物を支えるための重要な部分です。しかし「1階に和室の続き間がある」「南側のほとんどが窓である」「1階がガレージや倉庫になっている」という場合は、壁面積が少なくなり、耐震性が低くなる可能性があります。
特に、昔ながらの古い家は和室の続き間があったり、南側前面が窓になっていたりするケースも少なくありません。こうした構造の家は、地震の際に損壊や倒壊をする恐れがあるため、耐震補強を検討しましょう。
耐震性が気になる場合は「耐震診断」が有効
ご自宅や購入する中古住宅の耐震性に不安を感じる場合は「耐震診断」を実施するのも有効な方法です。
一般社団法人 日本耐震診断協会の定義によると、耐震診断とは「既存の建築物で旧耐震基準で設計され耐震性能を保有していない建物を、現行の構造基準 (新耐震基準)で耐震性の有無を確認すること」とされています。
ただし、新耐震基準で建てられた住宅であっても、劣化や過去の地震の影響などが気になる場合は、耐震診断を行うことが推奨されています。
耐震診断では、耐震技術認定者による現地での目視調査や設計図の確認、建築修繕履歴の確認を行ったうえで、必要に応じて詳細診断を行います。
耐震診断の費用は、建物の状態によって前後しますが、一般的には木造住宅一棟で10万円~30万円前後 (一般診断10万、詳細診断20万円)が目安です。耐震診断はまとまった費用が必要になりますが、適切な耐震補強を行うためには重要なポイントです。
また、補助金の需給を検討している場合は、耐震診断の実施が条件になることもあります。
耐震補強 (耐震リフォーム)で利用できる補助金制度
耐震補強の費用相場は、100万円~200万円が一般的であり、リフォームの中でも比較的コストがかかる工事です。少しでも費用を抑えたい場合は、補助金制度の利用を検討してみましょう。
ここからは、耐震補強で活用できる補助金制度の例を紹介します。
長期優良住宅化リフォーム推進事業
長期優良住宅化リフォーム推進事業とは、国が行う補助金事業であり、良質な住宅のストックや子育てしやすい環境の整備を目的としています。
補助金の対象となるのは「住宅の性能向上リフォーム工事費」であり、以下のような耐震補強工事も含まれます。
- 耐力壁の増設
- 屋根の軽量化 など
ただし、補助金を受けるためには「事前にインスペクションを行う」「維持保全計画及びリフォームの履歴を作成する」など所定の条件があります。
※令和4年度長期優良住宅化リフォーム推進事業は、2022年12月5日より受付を再開。
※本補助金に関する記載は2022年12月現在の情報です。最新の情報については、各公式サイトにてご確認ください。
各自治体の補助金制度
耐震補強に対して支給される補助金は、各自治体でも実施しています。自治体の補助金制度は、年度ごとや予算によって募集内容が変わることもあります。お住まいの地域の補助金制度を詳しく知りたい場合は、各自治体のHPを確認してみましょう。
ここからは、鹿児島県内で実施されている耐震補強で利用可能な各自治体の補助金制度の例を紹介します。
鹿児島市 安全安心住宅ストック支援事業
鹿児島市 安全安心住宅ストック支援事業では、住宅の耐震診断、耐震改修工事及びリフォームを支援しています。
補助金の対象となるのは、以下の費用です。
- 耐震診断の費用:昭和56年5月31日以前に着工された戸建て住宅
- 耐震改修工事の費用:耐震診断の結果、耐震性が不足していた戸建て住宅
- 耐震改修工事等とあわせて行うリフォーム費用:耐震改修工事等を行う戸建て住宅
※本補助金に関する記載は2022年12月現在の情報です。最新の情報については、各公式サイトにてご確認ください。
姶良市 木造住宅耐震診断・耐震改修工事補助制度
姶良市 木造住宅耐震診断・耐震改修工事補助制度は、木造住宅の倒壊などの被害を防ぎ、安全な建築物整備の促進を目的としています。
昭和56年5月31日以前に着工されており、地上3階建てまである木造住宅における以下の費用の一部が補助の対象です。
- 耐震診断の費用
- 耐震改修工事の費用
※令和4年4月1日より申請受付分は予算額に達し受付終了、次年度対象となる相談は随時受付中です。
※本補助金に関する記載は2022年12月現在の情報です。最新の情報については、各公式サイトにてご確認ください。
南さつま市 耐震診断・耐震補強工事補助金交付制度
南さつま市 耐震診断・耐震補強工事補助金交付制度は、木造住宅の地震に対する安全性の向上を目的とした補助金制度です。
昭和56年5月31日以前に着工されており、地上3階建てまである木造住宅における以下の費用の一部が補助の対象です。
- 耐震診断の費用
- 耐震改修工事の費用
※本補助金に関する記載は2022年12月現在の情報です。最新の情報については、各公式サイトにてご確認ください。
耐震補強 (耐震リフォーム)で利用できる税制優遇
耐震補強 (耐震リフォーム)を行った際は、条件を満たすことで税制優遇の措置を受けられます。
この税制優遇の措置は、性能向上リフォームを推進することで、耐震性に優れた良質で次の世代に資産として承継できるような住宅ストックを形成するための制度です。一定の耐震改修工事を行った場合、所得税額から一定額を控除し、さらに固定資産税が減額されます。
所得税の特例措置について
旧耐震基準により建築された住宅を、現行の新耐震基準に適合させる耐震改修工事を含む増改築等工事を行った場合、以下 (ア)+ (イ)の合計金額が所得税から控除されます。
(ア)耐震改修工事にかかわる標準的な工事費用相当額 (上限250万円)の10%
(イ)以下①、②の合計額 ( (ア)と合計で1,000万円まで) の5%
① (ア)の工事にかかわる標準的な工事費用相当額のうち250万円を超える額
② (ア)以外の一定の増改築等の費用に要した額 ( (ア)と同額が上限)
固定資産税の特例措置について
昭和57年1月1日以前に建築された住宅を、現行の新耐震基準に適合する耐震改修を行った場合、所定の要件を満たすことで翌年度分の固定資産税が1/2に減額されます。
耐震リフォームで失敗しないために信頼できるリフォーム会社に相談しよう
住宅の安全性を確保するためには、十分な耐震性能の確保が重要です。特に築年数が経過している木造住宅など、旧耐震基準に基づいて建てられた住宅の場合、大きな地震が発生した際には、建物が損傷・倒壊する危険性もあります。
建物の地震対策には「耐震」「制震」「免震」の3つがありますが、既存住宅では「耐震補強」が行われるのが一般的です。
マイホームや購入予定の中古住宅の耐震性に不安を感じる場合は、耐震診断を行うのが良いでしょう。まずは耐震診断の実施を含めて、耐震補強の実績が豊富なリフォーム会社に相談してみることをおすすめします。